愛と光の星・・・地球

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<<   作成日時 : 2017/06/22 14:40  

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「アレクセイ・フョードロウィチ・カラマーゾフは、今から丁度十三年前、悲劇的な謎の死を遂げて当時たいそう有名になった(いや、今でもまだ人々の口にのぼる)この郡の地主、フョードル・パーブロウィチ・カラマーゾフの三男であった。」

ロシアの作家ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の冒頭である(原卓也訳、新潮文庫)。

いまから約60年前、学生であった私は、夏休みに帰省するのを遅らせて、毎日朝から晩まで、ひたすらこの物語を読んだ。3日ぐらいかかったように思う。食事と、トイレと、風呂と、睡眠以外は何もしなかった。

当時、私は学生寮に住んでいた。大学の付属の寮ではなく、県営の寮だったので、いろいろな学校の学生が雑居していた。真面目に学校に行く人は少数派で(笑)、中には昼頃起き出して、どこかへ出かけたと思ったら、夕方パチンコの景品を大きな風呂敷包みで持ち帰って、気前よくみんなに分けてくれたりする豪傑もいた。

そんな中で、私は、朝から晩まで『カラマーゾフの兄弟』を読み続けた。私の意識の中は、ロシアの風景で満たされた。食事に行っても、食堂が架空の世界のように見えた。カラマーゾフの世界のほうがリアルだった。夏休みに入ると寮生はほとんどいなくなるので、めったに人と出会うこともなかったが、時折耳に入る日本語が異星の言語のようだった。私の耳の中には、カラマーゾフの登場人物の言葉が・・・もちろん訳されているのでそれも日本語なのだが・・・こだまし続けていた。

読み終えて帰省の途につき、九州行の急行列車に揺られていたら、次第に日常の現実がもどってきた。



私たちはいま、地球世界が現実だと思っている。しかし、これは、私がカラマーゾフの世界を現実だと感じていたのと同じである。私がロシアの人間ではなかったように、私たちは地球の人間ではない。ただ、地球の物語を読み続けているので、自分が地球の人間であるかのように感じているだけなのである。

地球の物語には終わりがない。それは、前へ前へと進んで行くように見えて、いつか、巧妙な仕掛けで何処かへ戻ってしまうので、いつまでたっても終わりはない。

終わらせようとするなら、自分が本を置くほかはないのである。読むのをやめるしかないのである。

私が読むのをやめたら、地球はどうなるのだろう。消えてなくなるのか?

そうではない。地球は、地球物語の本の中にそのまま残っている。また読みに来れば、何度でも、同じ物語を読むことができる。

たとえば、私たちは恋の物語を登場人物に感情移入しながら読むことができる。途中でやめて、あとでまた、続きを読むことができる。では、読むのをやめていたあいだ、恋人はどうしていたか・・・単に、再び読まれるのを待っていただけである。

地球物語も同じである。100億人の登場人物と、50億年の歴史を持つ地球物語は、何度読みに来ても、いつでも、新しい物語を提供してくれるだろう。それは、スリルとサスペンスと、愛と感動の宝庫である。

しかし、物語は物語である。ときには、物語を離れ、真の現実に戻ってみることも必要なのではないだろうか。



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